退職するからハンコください

「退職します、年末で」

と、上司に伝えたのは、2023年の11月の初旬でした。随分前より退職を検討していたのですが、最終的に転職先と話がまとまったタイミングがその時期だったのです。

もともと大柄だったのに筋肉増強で存在感を更に増した上司の肩越しに、ガラス張りのオフィスの透明な壁を通して、夕方の曇り空から小さい雨粒がチラチラふり始めたのが見えました。

私の申し出の意味を噛み締めて、言葉を選ぶ困惑した上司の表情よりも、帰り道で晒されるであろう寒風の方が気になったのを今でも覚えています。

自分、家族、そして所属組織への影響を考えた上で、退職のタイミングはその時しかなく、それを覆す時は、自分が自分の人生を諦めたことになることを理解していたので、社内でその後起こるであろう、そして実際に起こった様々な紆余曲折は、今になってみると取るに足らないしょうもないことでしかありませんでした。また、ありがたいことに、新しい職場の仕事に集中できていることと、私の忘却の速度が年々加速していることも相まって、すでにそれらの出来事の多くは月の向こうの遥か彼方へ旅立ってしまいました。

特に退職の理由等、根掘り葉掘り求められず、「一身上の都合」であっさりと受け入れてもらえました。

それなりに長居した職場から退職することは一大決心でしたが、契約の終了という儀式なのだなと認識できたので、退職に向けた書類手続きを淡々と進めました。

長く一緒に働いてきた同僚の皆さん、お別れは大変名残惜しくはありましたが、どうもありがとうございました。皆さんのおかげで楽しく仕事を進めることができましたし、笑顔と感謝で退社することができました。

他にも色々ここに残しておこうと思うことがあるのですが、また別の機会に触れたいと思います。